父の死から10日が過ぎた。まだ10日だ。もちろん今も声を覚えている。いつまで覚えていられるんだろうか。忘れたくないし、忘れてしまうとも思えないのだが、実際どうなんだか。

20年くらい前だったか、母方の祖父が亡くなった。けっこう離れた所に住む人だったので、盆や正月くらいしか会わなかったが、その声は今も覚えている。既に自分が大人だったからだろう。

実家の祖父が亡くなったのは、俺が小学校へ上がる前、40年以上になる。大のお婆ちゃんっ子だったのに、声は覚えていない。

母方の祖父の声、父の声、忘れないだろう。多分ね。

独り暮らしを始めてから、たまに実家へ帰ると父が必ずかけてくれた言葉は、仕事はどんな感じかというものだった。間違いなく言われた。それを言うのが当たり前のようだった。喋ることが何もないからそれを言ったのだろうか。

頼りない次男を心配してくれてたんだと思っている。長男はしっかりしているし、父と同じ家に住んでいるから、わざわざそんなこと訪ねる必要ないから。

何度も何度もかけられた、同じ言葉。だからずっと覚え続けるだろう。

犬が飼い主に「ごはん食べるか?」と言われ、「ごはん」という単語を覚えるようなもんかな。